ごあいさつ

はじめに

はじめに

今日、世界中で教育改革が進められています。
21世紀という‘複雑’‘変化’‘相互依存性’がキーワードとなる新しい時代において、子ども達が幸せに生きる力を身につけるためには、20世紀の教育では不十分だという認識がその前提にあります。
グローバル化が進む21世紀の教育ニーズは、国境を越え、普遍的な概念として教育者の共通認識となっています。
このような中で、多くの教育者が‘民主的な社会’を形成できる子どもを育てることの重要性を説いています。
民主的な社会とは、多様な人々がお互いを尊重しながら安心して存在できる社会のことを指します。
どのような教育を行えば、日本の子ども達に民主的な社会を形成できる力を身につけてもらえるのか、世界の事例も併せて検討していたところ、オランダで広く展開されているピースフルスクールプログラムというシチズンシップ教育に出会いました。
ピースフルスクールプログラムは、建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸にした教育プログラムであり、民主的な社会の担い手であり、平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。
1999年、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標に、学校教育としてピースフルスクールプログラムが開発されました。当時のオランダも今の日本と同様に、学級崩壊やいじめの問題に直面していたのです。その後、ピースフルスクールプログラムを導入する学校が増え、現在、オランダ全土で600校以上の学校がピースフルスクールプログラムを採用しています。
今では学校教育にとどまらず、地域社会におけるコミュニティ教育としても広がっています。
家庭や地域社会は学校を批判するのではなく、理解して支えます。学校での子どもの成長は、家庭や地域社会に良い影響を与えます。国全体が子ども達に大きな関心を向け、学びが循環している環境で、子ども達は育てられるのです。
私たちは、ピースフルスクールプログラムプログラムを通して、コンフリクトや紛争を暴力ではなく話し合いで平和に解決できる子どもを増やそうという、世界中の教育者 の願いに共感し、エデュニク社(現CEDグループ)、レオ・パウ氏、カロリン・フェルフーフ氏、リヒテルズ直子氏の協力のもと、今この活動を日本で始めます。
子ども達の幸せ、日本の未来、グローバル人材、21世紀スキル、いじめのないコミュニティづくりなどに関心をお持ちの方がこの活動に参加してくださることを、私たちは願っています。

シチズンシップ教育とは

シチズンシップ教育とは

シチズンシップ教育とは、国民一人ひとりが、社会の一員としてどのような責任を持ち、どう行動するべきかを教えるプログラムのことを指します。
ピースフルスクールプログラムでは、シチズンシップを以下の3類型に分類します。

シチズンシップ教育

  1. 個人的な責任を持つ市民
    個人的な責任を持つ市民は、法を遵守し、共同体に対しての責任を持っている。
    より良い目標に向かって生きており、緊急事態にはすすんでお互いを助け合うことができる。
  2. 参加的市民
    参加的市民は、共同体の活動に対して積極的に参加し、ものごとを変革し、改良することができる。
  3. 社会的正義を守る市民
    社会的正義を守る市民とは、社会的、政治的、経済的な構造に対して、批判的に判断し、より良い社会にするために、新たなアイデアを生み出すことができる。また、そのアイデアを実行に移すことができる。

ピースフルスクールの子ども達は、プログラムを通して、社会的正義を守ることのできる市民へと成長します。

21世紀スキルとシチズンシップ教育

21世紀スキルとシチズンシップ教育

今、世界中の子ども達は、正解を見つけてから動き始めるのではなく、動き始めてから出来事を振り返り、正解の方へ走り続けることを、時代に求められています。
このような中、子ども達が幸せに生きるために身につけるべき力とは、どのような力なのでしょうか。
この力を考える上で重要な役割を果たしているのが、OECDが定義しているコンピテンシーです。
このコンピテンシーは、21世紀に生きる私たちが目指す社会を、以下のように定義しています。

  • 民主的な社会
  • 持続可能な発展を続ける社会
このような社会を実現するため、特定の専門家だけでなく、全ての個人にとって重要とされる3つのキーコンピテンシーが定義されています。
  1. 相互作用的に道具を用いる
    語学や数学等の教科の知識に加え、テクノロジーに対するリテラシーが含まれます。
  2. 異質な集団で交流する
    他人と協働する力に加え、争いを処理し解決する力が含まれます。
  3. 自律的に活動する
    不確実な時代を幸福に生きるため、自らの人生を計画する力に加え、環境から自分を守る力が含まれます。
また、これら3つのキーコンピテンシーの前提として、核となるのは以下の2つの力です。
  1. 自ら工夫・創造する力
    教えられた知識をただ繰り返すのではなく、複雑な課題を解決するために、自ら考える力と自らの学習や行為に責任をとる能力のこと。
  2. リフレクション(内省)する力
    慣習的なやり方や過去に成功した方法を規定通りに適用するのではなく、変化に応じて経験から学び、批判的なスタンスで考え動く能力のこと。
ピースフルスクールプログラムは、3つのキーコンピテンシーうち、2の ‘異質な集団で交流する’ と3の ‘自律的に活動する’ を特に育む教育プログラムです。
また、核となる力である②の ‘リフレクション(内省)する力’ も、ピースフルスクールプログラムで身につけることができます。

 

いじめとシチズンシップ教育

いじめとシチズンシップ教育

ピースフルスクールプログラムは、いじめのないコミュニティを創る子どもを育てます。
教師や保護者が監視、抑圧することでいじめを防止するのではなく、子ども達が主体的に自らのコミュニティを運営する中で、いじめのない学校を創る力を習得します。
ピースフルスクールでは、ケンカや対立が起きると、子ども達はその問題を自ら解決するために活動します。
対立の当事者は、自分の意見や考えを落ち着いて主張し、オープンに話し合うことで問題を解決することができます。
いじめられている子は、すぐに先生に助けを求めるのではなく、いじめている人に「やめてほしい」と自ら伝える必要があることを知っています。
先生や保護者も、対立やケンカに直接介入するのではなく、子ども達だけで問題を解決するように、少し遠くから様子を見守ります。
それでは、子ども達だけで、どのようにコンフリクトを解決するのでしょうか。
まず、子ども達は、3色の帽子をモデルにして、対立が起きた時のコミュニケーションの取り方を学びます。

  • 赤い帽子は、自分の意見を強く押し通すスタイル(攻撃する)
  • 青い帽子は、自分の意見を言わずに、相手に合わせるスタイル(譲歩する)
  • 黄色い帽子は、お互いに意見を述べ、話し合いで合意するスタイル(話し合う)
子ども達は、それぞれのメリット・デメリットを理解します。
赤い帽子で対応すると、自分の意見は通るかもしれませんが、ケンカになってしまいます。
青い帽子で対応すると、ケンカにはなりませんが、自分の意見は通りません。
黄色い帽子で対応すると、時間はかかってしまいますが、お互い納得して物事を決めることが出来ます。
子ども達は、黄色い帽子でコンフリクトを解決するのがベストであることを小さい頃から学びます。対立して怒ってしまっても、黄色い帽子で対応する必要性を思い出し、冷静になるように気持ちを切り替えることもできるのです。
このような力を身につけている子ども達だからこそ、いじめのない学校を創ることができるのです。
ピースフルスクールの小学校5、6年生が、小学校全体のケンカの仲裁を先生に代わって行うことができるのも、子ども達一人ひとりが対立を話し合いで解決することの大切さを認識し、そのために必要なスキルを習得しているからです。

仲裁について

また、子ども達はいじめがどのような構造で成り立っているのか、システムで捉えて学びます。その中で、被害者と加害者のみならず、傍観者がいじめの構造を支える上で重要な役割を持つことを認識します。そして、いじめの傍観者にならない心を育みます。
学校に関わる人全員で、ピースフルスクールを通して、子ども達が安心して存在できるコミュニティを創りあげていきます。